韓国オデンとの出会い

 釜山はソウルに次ぐ韓国第二の都市である。15世紀の初めは小さな漁村にすぎなかったが、今では国内最大の港として栄える。下関のほか福岡へのフェリー航路もあり、日本と韓国を往復する“担ぎ屋”のおばさん以外の一般利用客も多い。
 当然のように、食文化もお互いの国の影響を受けて変化する。からし明太子は韓国からやってきたし、逆に日本のたくあんやのり巻きは韓国の人たちに人気だ。どちらも自国の食べ物と認識しているほど、それぞれの国になじんでいる。
 入国手続きを終えて釜山の国際フェリーターミナルを出たのは、午前9時過ぎだった。韓国へは普通乗用車しか持ち込めないので、韓国内は一般交通機関を使った旅になる。
 釜山一の繁華街・南浦洞から海側に足を踏み入れると、乾物市場が現れた。のりや昆布、煮干しや塩干物など、さまざまな乾物店が立ち並ぶ。店の軒先にはスルメがぶら下がり、前の道路いっぱいに品物が詰まった箱が積んであった。
 そのまま進んでいくと、岸壁に沿って屋台が集まり始めていた。時間が早いので人通りはまばらだ。ここから先が釜山の台所・チャガルチ市場である。
 チャガルチ市場は、1950(昭和25)年に始まった朝鮮戦争(韓国動乱)が終結したあとに、女性たちが中心になって作った魚市場だ。釜山は韓国有数の漁港であり、水揚げされる魚の種類も多い。市場の建物は新旧2棟が並び、どちらの建物でも1階で買った魚を2階で料理してくれる。
 市場を冷やかすと、「サシミ、どうですか」と日本語で声をかけられた。それでも、今回の僕の目的はオデン(日本のおでんと区別するため、片仮名で「オデン」と表記する)である。辺りを見回しながら、気ままに歩く。市場の周辺にはリヤカーを改造したような小さな屋台がたくさんあり、オデン屋台は何軒もあることがわかった。
 〈意外にあっさり見つかっちゃったなあ〉
 市場の端まで行ってから、また逆に戻ってくる。「ふく」(フグ)の看板を出す店や鯨を山積みにした屋台もあった。
 オデン種を売る店は数軒しかなかったが、手押しの台車で売り歩く人も多い。しばらく後ろから観察すると、声をかけて買う人が次々に現れる。見たところ、薄い長方形の揚げかまぼこが何種類かあるが、違いはよくわからなかった。
 ひととおり歩き終え、おいしそうなオデン屋台の前で足を止めた。オデン種は棒状と長方形の二種類があり、一本ずつ長い串に刺さって、鍋からニョキニョキと飛び出ている。油で揚げる時間が短いのか、魚の処理の仕方が違うのか、オデン種は薄茶色だ。
 右手でオデンの串を持って、横の容器のたれを付けて口に運ぶ。ちょっと柔らかめだが、日本の揚げかまぼことほとんど同じ。もう一種類食べてみたが、味の違いは感じられなかった。付けだれの基本は醤油で、とうがらしがほんの少し加わっている。ごま油の風味も感じられ、表面に白ごまと長ネギが浮かんでいた。
 初体験の韓国オデンを味わう僕の横で、置いてあったプラスチック製のカップを鍋に突っ込み、だし汁を勝手に飲み始めるおじさんがいた。初めはびっくりしたものの、店のおばさんはそしらぬ顔をしている。どうやら、右手の串刺しオデンをかじりながら、左手のカップでだし汁をすくって飲むのが正しい食べ方のようだ。
 〈ふむふむ。そういう仕組みなのか。では僕も遠慮なく……〉
 だし汁を口に含むと、しっかりした昆布だしの風味。鍋のなかには、昆布・玉ネギ・長ネギ・とうがらしなどが見える。店によって大根もあったが、これもだし用に使われていた。
 また、オデンといっしょにタイヤキを売る店が多かった。「クッパァ」(韓国語でバラの意)という小判型の物と、日本と同じタイ型の物がある。生地は柔らかめのクリームで、日本のタイヤキとは食感が違った。オデンもタイヤキも一つ300ウォン。マクドナルドのコーヒーが一杯700ウォンなので、かなり安く感じる。
 市場を出て、南浦洞の繁華街に戻った。ブティックや映画館などが立ち並び、若者の姿も多い。その一角に屋台が連なる路地があった。「キムパブ」と呼ぶのり巻きが山積みされ、その隣でオデン鍋が湯気を上げている。のり巻きの表面にはごま油が塗られ、白ごまが散らしてあった。朝鮮半島の料理ではごま油がよく使われるので、日本から入ったのり巻きも韓国風にアレンジされたのだ。
 オデン鍋と並んで、赤い煮物のような食べ物があった。オデンに使われる棒状の揚げかまぼこも使われている。これは屋台の定番メニュー「トッポッキ」だ。「トク」はもち、「ポッキ」は炒め物の意味で、うるち米の粉で作った棒状のもちが使われる。味付けはコチュジャン(とうがらし味噌)と砂糖で、けっこう甘ったるかった。
 釜山で二泊してから、12月16日の朝早く、郊外にある高速バスターミナルへ向かった。午前8時半、無事に光州行きの高速バスに乗り込んだ。旅の移動には列車を使うつもりだったが、釜山から目的地の木浦までは乗り継ぎが悪い。しかたなく、便利で早い高速バスを利用することにした。
 高速道路は外の景色が見えないのでつまらない。料金所で軍のチェックを受けると、あとはまっすぐ目的地に進む。3時間ほどで光州の総合バスターミナルに到着。予定より1時間も早く着いてしまった。どういうスケジュールなのだろうか。
 次は市外バスに乗り換えて木浦を目指す。停車地が少ない直行バスを探してターミナルを歩く。発券所には自動販売機しかないが、ローマ字が書いてあるので日本と同じように操作すれば平気だ。
 光州から道沿いの風景を眺めながら、1時間40分で木浦に着いた。数日前まではバイクの旅だったので、新鮮な気分でローカルバスを降りた。

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