モバイルマシン
OASYS Pocket3
【富士通 OASYS Pocket3】

 ワープロを最初に手にしたのはずいぶん昔のことだ。当時はまだ液晶画面が2行から4行に増えたときで、それでもその購入タイミングに喜んでいた。それから7年ほど愛用していた東芝ルポ(JW-R50FII)を買い替えようと思ったのは、ニフティサーブの電子ネットワークに参加したかったからだ。
 タイポスの書体が好きでルポを選んだのだが、後継機にはその書体は使われてなく、しかも古い機種のせいで今までのデータが上位機種で読み込めなかった。それならばと、他社メーカーを比較して、富士通の書体と行修飾の細かさが気に入って買い替えることにした。
 2台目のワープロは、OASYS 30-LX405(92年6月発売)。通信用ワープロという宣伝コピーで、簡単にニフティにアクセスできる機種だった。このときに搭載されていた通信ソフト「AutoCom」があったおかげで、気軽にネットワークの世界に足を踏み入れることができた。今にして思えば、この出会いはすごく幸せだった。
 なお、この機種にはOASYSのワープロ以外にMS-DOSのシステムが内臓されていて、AutoComはMS-DOS側で動くソフトだった。そのせいか、まったく興味がなかった“パソコン”の世界も知らず知らずのうちに学んでいたのだ。
 一方、それまでローマ字入力だった僕は、富士通のワープロに買い替えるときに親指シフトのモデルを選んだ。どうせローマ字入力をするのだから、かな入力の方法はどちらでもよく、富士通が開発した独自の入力方法に敬意を表したつもりだった。
 そしてこれが大当たりだった。1年ぐらいして親指シフト入力を試してみたところ、ものすごく気持ちよく楽に入力ができたのだ。付属の入力ゲームに熱中するうちに、1週間でキー配列を覚えてしまった。親指シフトは「入力の早さ」が強調されがちだが、楽に打てることをもっと知ってもらいたいと思う。
 この違いを音楽に例えると、ローマ字入力は8ビートのロック、親指シフトはスタンダード・ジャズのような感じだ。とにかく、ピアノを奏でるように、キーボードの上で無意識のうちに指が踊り、頭に浮かんだ言葉が見る見るうちに入力できる。僕はもう親指シフトのとりこになり、その後、購入したMacintoshにも専用の親指シフトキーボードを導入している。

 そして、おでん調査の旅に出る前に、携帯用のOASYS Pocket3(94年5月発売)を入手。初代Pocketが発売されたのは91年3月で、当時はまだモバイルやPDAという言葉もなかったようだ。その時代を先取りした3世代目のPocket3には、30-LX405と同じようにMS-DOSが内臓され、AutoComも使えた。
 専用ワープロというよりも、MS-DOSマシンとして活用していた環境が、そのまま屋外に持ち出せたのはものすごく便利で、なおかつ心強かった。530グラムと軽く、単3アルカリ電池2本で10時間の連続使用が可能。
 僕は太陽電池を使ってニッカド充電池を充電しながら、Pocket3で旅日記を毎日書き続けた。公衆電話を使ってその日記をニフティのパティオに書き込み、約70人といっしょに旅を共有することもできた。106日間の旅の間にPocket3で書いた日記は、400字詰めの原稿用紙に換算すると760枚に及んでいた。
 親指シフトとPocket3がなければ、この膨大な日記は生まれなかっただろう。モバイル全盛の現在も、いまだに後継機が見つからず、Pocket3を愛用中。ただし、残念ながら今は生産が終了している。親指シフトの魅力に気づく人が増えることを祈りつつ−−。
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