東海のおでん

おでんが充実している地域

 関東風・関西風といったありきたりの区別を吹き飛ばしてしまうほど、東海地方のおでんには勢いがある。
  静岡では、イワシのすり身を固めた「黒はんぺん」、とろりと煮込まれた「豚もつ」、かまぼこをちょっと甘くしたような「白焼き」などが入り、「だし粉」という“ふりかけ”をかけるのが大きな特徴。
  八丁味噌に代表される豆味噌好きな愛知では、味噌で煮込んだり味噌だれを付ける。味噌壺がおでん鍋の横にある場合と、おでん鍋の中で温めてある場合があり、いずれもおでん種を味噌壺にどぷんと浸してから食べる。

駄菓子屋の店先で買えた
あのおでんを味わう

駄菓子屋のおでん 昭和30年代ごろまでは、駄菓子屋の一角でおでんを買うことができたという。店先におでん鍋があったり、店の奥のテーブルでお好み焼きや焼きそばなどといっしょに食べられた。そんな懐かしい雰囲気が、静岡市周辺にはまだ多く残っている。
 浅間神社へ続く商店街で「名代おでん」の看板を出すのが、「おがわ」という店。ショーケースにはおはぎやまんじゅうが置かれ、ソフトクリームやかき氷を買うこともできる。店の奥にテーブル席があって、簡単な食事もできる。
 駄菓子屋というよりは旧街道の茶屋の風情を感じさせる。おでん鍋をのぞくと、長年、継ぎ足しで使っているせいか、だしは真っ黒になり、表面に脂が漂っていた。好きな種を皿に取り、鰹節やイワシの削り節と青のりをミックスしただし粉「だし粉」をパラパラとふりかければ、気分はもう静岡市民。味噌だれを付けてからだし粉をかける店もあるが、味噌だれは愛知方面からの影響がありそうだ。

■おがわ/TEL 054-252-2548/静岡市馬場町38/9時30分〜18時30分ごろ、水休/JR静岡駅から徒歩15分



赤提灯に誘われて
千鳥足で屋台の世界へ

おでん横町 静岡市内には、青葉横丁・青葉おでん街・ちゃっきり横丁・別雷おでん街・縄のれん街など、おでん屋が密集するエリアがあって、どこもにぎわっている。その昔、区画整理のときに屋台を集めたのが始まりらしく、どこも一間ぐらいの入口の小さな店である。
 なかでも青葉横町と青葉おでん街が人気で、横町の雰囲気なら青葉おでん街がダントツだ。提灯に囲まれた路地を何度も行ったり来たりしながら、暖簾の隙間から様子をうかがう。そして、思い切って飛び込んだのが「愛ちゃん」だった。
 カウンターに10人ぐらい座ると満席になってしまうほどなので、必然的に店のおじさんやおばさんと話が弾む。どうやら店名は娘の名前らしい。
愛ちゃんのおでん 昭和43(1968)年に今の場所に店を構える前は、11年間屋台で営業してたというから、かれこれ45年もおでんを提供してきたことになる。だし汁もずっと継ぎ足しで使ってきた。
「このカウンターはね、屋台のときと同じ高さにしてあるんだよ」
 屋台にいるような居心地のよさは、店主と客の間にあるカウンターに秘密があったのだ。

■愛ちゃん/TEL 054-252-3358/静岡県静岡市常磐町2-3-6/16時30分〜1時、水休/JR静岡駅から徒歩10分

どてとおでんが競演
名古屋が誇る味比べ

 名古屋駅の北側に、どて(豚もつを味噌で煮込んだ物)や串カツなどを出す小さな飲み屋が連なる一角がある。繁華街から離れているにもかかわらず、夕方になるとどの店も満員だ。
 そのうちの一軒、「のんき屋」の暖簾をくぐったが、テーブル席や小上がりはすでにいっぱいで、道路に面したカウンターで立ち食いとなった。目の前の丸鍋ではどてやおでんがグツグツと煮込まれて湯気を上げている。焼き鳥やとん焼きを備長炭で焼きながら、串カツを揚げる手を休める間もないほどの忙しさだ。
「昔の屋台はこんな感じやろ?」
 外に立ってカウンター越しに店内を眺めていたら、おばちゃんに声をかけられた。そう言われてみれば、赤提灯の横に立っていると、屋台で食べているような錯覚を覚える。のんき屋の創業は昭和29(1954)年。屋台の雰囲気を生かすため、最初から歩道に面したカウンターを作ったという。
「店の中が空いてても、ここでなきゃ嫌やという人もおるよ」
のんき屋のおでん 常連客のなかには、このカウンターで飲み食いするのが好きな人がいるらしい。客の目の前に食べる物がみんな揃っているわけだから、その気持ちがよくわかる。
 鍋からどてとおでんを数本皿に取る。次に、串カツを1本持って、どてとおでんが煮込まれている鍋に突っ込む。もちろんソースも用意されているが、ここはやはり味噌だれで食べたいところだ。自慢の味噌だれは、八丁味噌に砂糖を加えてベースを作り、種を何時間も煮込んで作られる。口にするとやや甘めで、豚もつのうまみがおでん種に染み込んでいる。串カツとセットになった口直しのキャベツが置かれているが、思わずビールを注文したくなるほど濃厚な味だ。
 名物のどてとおでんをつまみながら、北風に身をすくめる季節になった。

■のんき屋/TEL 052-565-0207/名古屋市西区名駅2-18-6/17時〜22時、日祝休/JR名古屋駅から徒歩10分

八丁味噌の香りが漂う
滋味豊かな味噌おでん

 名古屋中心部でおでんといえば、豆味噌で煮込んだ“味噌煮込みおでん”である。真っ黒な汁に、これまた真っ黒なおでん種が見え隠れして、ほとんどヤミ鍋状態!? 見ためは辛そうだが、その奥深い味わいは一度食べたら忘れられない。
 住宅街の外れにある「とん八」の創業年ははっきりしないが、50年以上は経っているそうだ。店内は細長く、カウンターが16席あるだけ。メニューもシンプルに「味噌おでん・串かつ・関東煮・御飯・赤だし」のみ。ご飯や味噌汁があるせいか、昼を食べに来る人が多い。
 おでん種は1本120円で、豆腐・大根・コンニャク・厚揚げ・玉子・里芋・ハンペン(揚げボール)・すじ肉の八種。大豆の風味とほのかな甘みが口の中に広がって、いくらでも食べられる。
 味のポイントは、豆粒が残る八丁味噌と黄ザラメ、そしておでん種にもなる牛すじ肉である。朝早くから牛すじ肉を煮込んでベースを作り、そこへ前日に残った味噌と新しい味噌を加え、黄ザラメで甘さを調節する。
「鍋の3分の1でいいから、前から使っている味噌が必要なんです。店が移転するときにも味噌は持ってきました」とん八のおでん
 どうやら、新しい味噌だけだとエグみが出てしまうそうだ。長年使い込んだ味噌は「私の宝物」だと、2代目の彦坂泰郎さんは顔をほころばせた。
 味噌だれを付けるおでんが田楽と今のおでんの中間形態ならば、“味噌煮込みおでん”は名古屋独自の文化として発展したおでんといえそうだ。

■とん八(とんぱち)/TEL 052-931-2301/名古屋市東区代官町32-5/11時〜13時、17時〜19時30分、日祝休/地下鉄新栄町から徒歩12分

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